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パティ・スミス「バベル」 [ミュージック]


読者へ

 1977年1月、バンドのツァーの途上で、わたしはステージから派手に落ちてしまいました。おかげでギブスに固められ、春まで身動きできずとなりました。でも、この期間は有益なものでした。バンドのメンバーの応援と、レニー、アンディの助けで、自分の言葉や思考をまとめ、本書に収めた作品を仕上げることができたのです。
 当時のロック・バンドとしてのわたしたちの哲学は、本書のほとんどすべてにしみわたっています。ロックは未来のアートであり、民衆のアートであり、その純粋さには普遍的なコミュニケーションが見出せる、とわたしたちは信じていました。この作業には多くの献身と訓練がそそぎ込まれ、おかげでグループのメンバーたちは親しみをこめてわたしを野戦司令官と呼んだほどです。
 この作品が、70年代という情勢下で生まれたことは考慮する必要があります。わたしたちがアートと夢において駆け抜けた戦場は、罪悪感や苦悶とは無縁のものでした。あなたも、同じ精神をもってこの戦場に足を踏み入れてくれますように。アートと夢において、献身とともに進んでくれますように。そして生においても、地雷原を横切る兵士の明晰さと勇気をもって、平衡をとりつつ慎重に進まれますように。生命力より貴重なものなどないのですから。そして進むあなたを、その生命力への愛が導いてくれますように。

序文(日本版のための序文 1991.10.1)       パティ・スミス

バベル

バベル

  • 作者: パティ・スミス
  • 出版社/メーカー: 思潮社
  • 発売日: 1994/01
  • メディア: 単行本

祝・紙ジャケ化!

ホーセス (紙ジャケット仕様)
ラジオ・エチオピア (紙ジャケット仕様)
イースター (紙ジャケット仕様)
ウェイヴ (紙ジャケット仕様)

ということで、パティ・スミスを…
ちょっとひねりを入れて、日本でも発売された彼女の第4詩集『バベル』を素材に、彼女の「伝説」をコラージュ化してみました
もちろん、趣旨は、うんちくを語ることにあるのではなく(死んだ知識なんてクソ食らえです)、彼女の「駆け抜けた戦場」の断片を束の間でもいいから蘇らせること

【パトリシア・リー・スミス】
パティ・スミスの本名。1946年12月30日、シカゴに生まれる。

【文学少女】
幼少時代は病弱で、ベッドで寝ていることが多かった。そんな彼女の心の慰めとなったのが読書と音楽。
彼女の文学のお気に入りは、ヴェルレーヌやボードレール、アルトー、ジャン・ジュネ、そしてランボー。

【アルチュール・ランボー】
フランス象徴派詩人、「呪われた詩人たち」の一人、幻視者。美少年キャラ。ヴェルレーヌとの禁断の関係、挙句の果ての壮絶な痴話喧嘩も有名。

【UFO】
占星術やオカルト趣味もパティの重要な要素の一つ。UFOも、歌詞にしばしば登場。

【グルーピー】
自分が崇拝するアイドルたちの忠実な愛人になること…これが、パティの覚醒前の夢。

【モディリアニ】
大学ではアートを専攻。アートに目覚めたきっかけは、モディリアニ。
彼の絵に登場するモデルたちの姿を見て、やせっぽちコンプレックスを克服したとか。

【ブライアン・ジョーンズ】
1969年7月3日、一人のロック・ミュージシャンが死んだ。それを聞いて、当時、フランス文学趣味が高じてパリで生活していたパティは帰国を決意する。

【ジム・モリソン】
ディランズ・チルドレンの一人、エリオット・マーフィーは、アルバム『街の灯』の「レディ・スティレット」で歌った。
「彼女がガリガリにやせてしまったのは ジム・モリソンの骨の上で断食したため」

【ジム・モリソンの墓】
ジム・モリソンは、1971年7月3日に移住先のパリのアパートで死亡。墓もパリにある。

【エリック・アンダースン】
ディランズ・チルドレンのシンガー・ソングライター。『愛と放浪の日々』に収められた「ワイルド・クロウ・ブルース」はパティに捧げられた曲。

【男遍歴】
愛は吸血鬼だ。死んだ事実。死に切れぬエネルギー。ここ、夢の中でかのじょは男をつかまえる。男たちは自らの装具のままで残される。
「ドクター愛」より
どうでもいいことだが、彼女の相手になったのはインテリの美形優男ばかり…

【ロバート・メイプルソープ】
写真家。パティの1stアルバムのジャケット写真を撮影。
「君は…僕がゲイになりきる前の最後の防波堤」

【チェルシー・ホテル】
ニューヨークの名所。あまりに多くの逸話(アンディ・ウォーホルは言うまでもなく)が残されているので、とても紹介しきれない。ロック史的には(と言うよりも、芸能ネタ?)、パティがメイプルソープと暮らした場所。そして、シド・ヴィシャスがナンシーを刺殺後、自害して果てた所。

【アート・ファクトリー】
パティとメイプルソープとの共同戦線。その周囲を前衛たちがうごめく。

【サム・シェパード】
劇作家兼俳優。パティと同棲し、劇「カウボーイ・マウス」を共作。

【ポエトリー・リーディング】
ウォーホル一派でチェルシーの住人でもあった詩人ジェラルド・マランガに詩の朗読を勧められたのがきっかけ。

【キース・リチャーズ】
当時のマスコミ評「キース・リチャーズの顔をした両性具有の女流詩人」

【アラン・レイニア】
ブルー・オイスター・カルトのキーボード奏者でパティの恋人。共作曲多数あり。

【トム・ヴァーレイン】
前世で激しくかかわった二人が、現世でも出会ってしまう…これは、もう宿命なのか?

ブルー・オイスター・カルト/タロットの呪い (紙ジャケット仕様)
テレヴィジョン/マーキー・ムーン (紙ジャケット仕様)

【ジミ・ヘンドリクス】
自主製作デビュー・シングル「ヘイ・ジョー」は、ジミヘンのカヴァー。レコーディングも彼の本拠地エレクトリック・レディランドで。

【ピス・ファクトリー】
デビュー・シングルのB面。パティ版「女工哀史」。妊娠して大学を中退、生まれた赤ん坊を里子に出して働いていたときの体験談。

【アリスタ・レコード】
創作上の口出しは一切しないという条件で、パティはクライヴ・デイヴィス率いるアリスタ・レコードと契約。29歳でのメジャー・デビュー。

【ヴェルヴェット・アンダーグラウンド】
彼女をクライヴ・デイヴィスに推薦したのはルー・リード、デビュー・アルバムをプロデュースしたのはジョン・ケイル。

【グローリア】
デビュー・アルバムの1曲目、ゼム(ヴァン・モリソン)のカヴァー。「ジーザスが死んだのは誰かの原罪のせい、あたしのせいなんかじゃない」は有名。

【パティ・スミス・グループ】
レニー・ケイ(ギター)、リチャード・ソール(ピアノ)、アイヴァン・クラール(ベース、後にブロンディに参加)、ジェイ・ディー・ドハーティ(ドラムス)。グループ名義のクレジットは2nd『ラジオ・エチオピア』から4th『ウェイヴ』まで。

【ピッシング・イン・ア・リヴァー】
何もかも、あなたのためにした
命だってあなたにあげる
すべての行為はあなたのためにだった
そして私は蛆虫のように殺された
いったいあなたは何が欲しいの
いったいあなたは、私などいらないの?
あなたなしには生きて行けない
あなたに真実など決して言わない
どうなのかしら、どうなのかしら
どうなのかしら、どうなのかしら
ああ私は川の中でオシッコをしてるようなもの

【アビシニア】
詩人を廃業し錬金術師となったランボーが遍歴した場所の一つ、現在のエチオピア。
参考文献:アラン・ボレル『アビシニアのランボー』東京創元社

【死んだランボー】
かれは37歳。脚を切断された。梅毒がにじむ。クリーム・ウィルス。M5戦車の尻につきささった謎のミサイル。犠牲者は魂-虐殺に苦しむ。顔は愚鈍で見事な舌はふくれあがり役たたず。
ランボー、もはやアビシニア高原の恐れを知らない若い騎手ではない。そのような情熱は永遠に浄化された。

【ランボオの夢】
おお、アルチュール、アルチュール、わたしたちはアビシニアのアデンにいる。make loveし、煙草をすう。わたしたちはキスをする。だけどそれ以上のことだ。青空よ。

【ナジャ】
「美は痙攣的なものであるか、さもなくば存在しない」
2nd『ラジオ・エチオピア』のインナー、そして『バベル』の冒頭詩「通告」で引用。

【バベル】
女1の次の次。失敗した錬金術師。かれの存在が泣く。それでも彼女を探しだし続けた。所有者と肉体的ヒエログリフの薔薇。ダンス、あるいは音と動きのダイアグラム。古代エジプト人の横顔がリズムにのって、舌の原初的位置が、ゆっくりと風化する儀式の没薬と同期。

【バベローグ】
過去なんてf**kしなかった、だけど未来とはうんとf**kしてきた。アハハ…肌の絹の上にはわたしの撫でてきたステージや壁のかけらでできた傷。それぞれ木のボルトは、ヘレンの丸太のように、わたしの喜びだった。その夜の成功の度合いは、PAを横たえている列柱の上にわたしが発散できる小便と精子の量で測れた。

【ビコーズ・ザ・ナイト】
3rdアルバム『イースター』と同時に発売されたシングル。ブルース・スプリングスティーンとの共作が話題となり全米13位まで上昇。ただし、企画したのはあくまでレコード会社サイドで、パティ自身はあまり気乗りがしなかったとか。

【リインカーネーション】
私たちは再び蘇る
私たちは再び生きる
私たちは再び蘇る
善き行いをするのだ
私たちは生きる

兄弟の苦痛を和らげ
心するのだ
それは生きている
片足を伸ばして
大地を這いずるんだ
大地のうねり
芋虫がのたうつ
「ゴースト・ダンス」より

【トッド・ラングレン】
4thアルバム『ウェイヴ』をプロデュース。アーティストと決まって一悶着起こすトッドだが、パティとは終始平穏な関係。『ウェイヴ』が最後のアルバムになることを、前もって知らされていたからか。

【フレッド・スミス】
伝説的パンク・バンド、MC5のギタリスト。愛称フレッド“ソニック”スミス。パティとは、固い絆で結ばれる。
MC5は、パンク・バンドの中でも最も政治的で、危険思想の持ち主だった。

【フレデリック】
『ウェイヴ』からのシングル・カット曲。全米90位まで上昇。パティにこんな穏やかなラヴ・ソングが書けるとは…
もちろん、夫フレッド・スミスに捧げられた曲だが、「フレデリック」とはランボーの兄の名でもある。

【ピープル・ハヴ・ザ・パワー】
9年ぶりの戦列復帰、5thアルバム『ドリーム・オブ・ライフ』からのシングル。パティとビートルズ、レノンとの関係は希薄な気がするけれど、これはどう解釈しても「パワー・トゥ・ザ・ピープル」へのアンサー・ソング?

【ゴーン・アゲイン】
1989年3月9日メイプルソープ、1990年6月3日リチャード・ソール、1994年11月4日フレッド・スミス、逝く。
鎮魂歌「ゴーン・アゲイン」は、1996年にようやく発表。


ホーセス 1975年
ホーセス [レガシー・エディション] (2005年)
ラジオ・エチオピア 1976年
イースター 1978年
ウェイヴ 1979年
ドリーム・オブ・ライフ 1988年
ゴーン・アゲイン 1996年
ピース・アンド・ノイズ 1997年
ガン・ホー 2000年
ランド(1975-2002) 2002年
トランピン 2004年

今日の1曲
Easter 「イースター」/パティ・スミス・グループ

【Easter イースター】
私は春、私は聖地
私は神秘の種
棘、ヴェール、優雅な顔
真鍮の像、眠れる盗人
夢の大使
平和の王子
私は険、刀傷、血しぶき
あざけられ、姿を変えられたカインの子
私は分裂し、終息し、再び帰ってくる
私は刺激、私は苦笑い
私は光の世界の気体
宵の明星、生まれ出でた眺め
流れ出し、滴れ落ちる
キリストの涙
今夜は空に昇りながら死んでゆく

イザベラ、私たちは昇ってゆく
イザベラ、私たちは昇ってゆく

【イザベラ】
ランボーの妹

参考のために、詩集『バベル』では…
【Easter 復活祭】
待ちきれず今にも動き
恋に落ち
彼女の紫のスカーフ/緑のシルクのストッキング
図書館を出る
何もかもがほかのものだ
口は彼女の股間の亀裂だ
彼女を鉛筆で犯す
ブラシで、指先で
女の溝はカンバス
フロレンスのフレスコ画
石膏聖人のあばた肌
アートがすべて無意味に思え
とらえどころのない顔のぼんけた写真
または苦悶するイエスの顔の蝋人形
や石人形。
棚(ラック)/ロック
カーペットで愛を交わす
赤く激しく
赤ん坊の吐息
反吐と小便
が無価値なティントレット女の顔に
どこで食べよう
お互いの顔をむさぼり詰めこもう
おお 罪も欲望もない完全な生命体として
わたしはむしろもっとも柔らかいルビーの腹の歪みとして理解されたい

29年が冠のように降りたち
29年わたしは栄え滅びた。


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コメント 4

yubeshi

やはりご購入されていましたか(笑)
何かの本(確かウォーホールだったと思うのですが)、関係者一覧のパティ・スミスの所の肩書きが「詩人」になっていましたね。
私も紙ジャケは「Wave」までは買おうと思っています。財政難につき、もう少し先になりそうですが。
閣下が復帰後のアルバムも評価していて何だか嬉しいです。私も「Peace and Noise」なんかはかなり好きです。
by yubeshi (2007-06-22 17:38) 

モバサム41

yubeshiさん、コメントありがとうございます。
2003年にパルコミュージアムでこんなのやってたんですね。
http://www.parco-art.com/web/archives/museum/patti_smith/
見逃してしまったのは、痛恨です。
by モバサム41 (2007-06-23 00:21) 

sknys

モバサムさん、こんばんは。
やっと『バベル』を読了しました^^
Patti Smithは「歌手」であるより前に「詩人」だったのね。

「詩」の翻訳は難しい‥‥ということで、
英語版オリジナル原詩が併録されているのかな(完訳でないのは残念)。
「歌詞」に収まらない「詩」と「散文詩」が彼女の内面を露わにする。

この世界を小説化して理論武装するとキャシー・アッカー女史になる?
素晴しい詩集だったので、サイド欄に貼りました(画像を拝借しました)。
by sknys (2007-07-08 01:36) 

モバサム41

詩人パティの姿を知らないと、彼女の全貌が見えてこないのかもしれません。
翻訳で詩がわかるのか、と言われると確かに困ってしまいますが…
「パティ・スミス完全版」というのも出てたらしくて…気づくの遅かった。
by モバサム41 (2007-07-09 00:07) 

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