シメール [トイ]
大きな空は鉛色に垂れ、道もなく、芝草もなく、薊も蕁麻(いらくさ)も生えていない埃だらけの大平原の中を、首うなだれて歩いて行く多くの人々に出会った。
行人の一人一人は、背中に巨大な噴火獣(Chimère)を載せていたが、その重量たるや小麦袋か石炭袋に、或いはまたローマ歩兵の軍装にも比較されるほどだった。
私は行人の一人を呼びとめると、そうやって一体何所へ行くつもりなのか尋ねてみた。その男は、自分も、また他の連中も、行先のことは何も知らぬ、ただ前進しようという打克ちがたい欲求に絶えず駆り立てられている以上、確かに何所へかは行きつつあるのだろうと答えた。
ボードレール「人はみな幻想(シメール)を」(福永武彦訳『パリの憂愁』より)
ギュスターヴ・モロー「キマイラ」
キマイラ(フランス語ではシメール)というと、獅子の頭、山羊の胴、蛇の尾を持つ合成獣ですから、一般的にはこんな姿になるかと思います
ベルトゥーフ『少年絵本』より(荒俣宏『アラマタ図像館1「怪物」』からの転載)
やのまん デモンズ・クロニクルⅡ
『金子一馬グラフィックス 万魔殿 ~悪魔編・上巻~』より
したがって、モローの「キマイラ」はかなりいい加減…これでは、翼の生えたケンタウロスでしかありません
架空の怪物のデザインに厳密性を求めてもしょうがないだろという意見もあるかもしれませんが、やはり怪物にも由緒正しさというものあります(この辺りの記述は前回記事と全く矛盾していますが、大目に見てやってください…笑)
恐るべき魔物であるからには、古の時代からその存在を知られているはずであり、古代人の語る「獅子の頭、山羊の胴、蛇の尾…」という奇妙奇天烈、支離滅裂な表現も何らかの信憑性を備えているに違いありません
やはり、最低限の「お約束」くらいは守ってもらわないと…
そういった意味でもっと許せないのは…
某有名RPGのこいつですね
スクウェア・エニックス ドラゴンクエスト モンスターバトルロード
伝説の魔物がザコキャラに落ちぶれてしまったというのは、まあ許すとしても…
やはり、このデザイン…
これじゃあ、ただの鳥だろが!…と言いたくなってしまいます
(次回に続く)
今日の1曲
これは恐るべき合成獣です(笑)
キメラメキメキ♪ / やよい
↓こちらからどうぞ
http://dic.nicovideo.jp/v/sm2723880
おまけ
パンドラボックスです
モバサムさん、こんばんは。
もの凄い「鉱脈」を発掘しましたね^^
ギリシア神話シリーズ!‥‥山岸凉子のように量産出来るでしょう。
モロー展で実物を観ましたが、イケメンの「シメール」君です。
「スフィンクス」は飼主に戯れつくネコちゃんみたいでした。
一角獣とかペガサスとか、モローにはメルヘンチックなところがある?
ミレーヌ姫の新作《Point de Suture》の最速レヴューです^^
(http://caprice.blog.so-net.ne.jp/2008-09-08)
by sknys (2008-09-10 01:35)
書き手にとってはルーチンワーク化することは経済的で効率良いことなのですが、作品そのもののエネルギーは確実に衰えます。
お互いに使い過ぎに気をつけましょう(笑)
モロー展の「キマイラ」は水彩の習作、油彩の完成作は「ウィンスロップ・コレクション」で初登場だったと思います。
by モバサム41 (2008-09-16 22:48)