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ソフトマシーン by バロウズ [ブック]



「フードをかぶった死人が回転ドアの中で独り言を言う――かつて私だったものは逆回転サウンドトラックだ――化石オルガズムがうつろな協力にひざまずく」公衆便所をぬける風――「J'aime ces types vicieux qui'ci montrent la bite」――水道管のそばの緑地――恥毛にからまった枯葉――「おいでせんずり――1929年」――自動販売機のすえた臭いの中で目覚めた――灰色のフラノのズボンの少年が手の中で数センチを笑いながら立っていた――他の肉体を通り抜ける影の車と風――「世界の終わり」に来た。画面のしばらく少年はくちびるとズボンを裏返し、世界の国々の忘れさられた手――

…というわけで、ふにゃふにゃの機械仕掛け、やわらかまちーん、The Soft Machine by William Burroughsです
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ソフトマシーン 河出文庫

アメリカ文学は守備範囲ではないのでスルーしても良かったのですが、「トマス・ド・クインシー以来の革命的麻薬中毒者の天才」という噂、そして、カート・コバーンローリー・アンダーソン、ニック・ケイヴなど数多のロック・スターから捧げられた崇拝を耳にしては、素通りはできません

ただ…これは、相当の難敵です(笑)
迂闊なことは言えないのですが、でも、迂闊なことを言わないと何も始まらないぞというのがうちのblogのポリシーなので、ひるまずに挑みます

まずは、マイナス要素から…
もう山ほどあります(笑)
大体、1回読んだくらいじゃさっぱり筋がつかめない
まあ、実験小説にストーリーなど求めてはいけないのかもしれませんが、意味さえ追跡するのが困難です(冒頭の引用は、割と意味がありそうな、なおかつ、文学的な香りがする部分を載せてみましたが…)
記憶に残るのは、定期的に訪れる(2ページに1回くらいの割合で)オルガズムと精液の垂れ流し、しかも男同士の…
あとは、便所の、いやネットの落書レベルの記述が至る所に散乱…「眼球譚」や「英吉利人」の健全さ、格調の高さがしみじみ実感できちゃうほどです
まあ、それでも、なんとか辛抱してあとがきまで読んでみると、筆者自ら(ギンズバーグとの対談の中で)語ってくれます
これは、「南米と金星に似たところのある神話的な地域」を舞台として繰り広げられる「コントローラーとそのコントロールから逃れようとしている連中との闘い」の物語である、と
ジャンルは、SFだったようです(まるで、「夢おち」みたいな…)
10年振りくらいの歯痛、そして頭痛と目の痛みの三重苦に悩まされていたこともあってか、読後はしばらく悪夢にうなされましたよ
金星ガニの大群に襲われてハサミで切り刻まれるという悪夢に…

バロウズを論じる際には、カットアップ(文章を切り取って並べかえる)やフォールドイン(切るのも面倒なので、折り込んで並べる)といった手法も必ず言及されますが、これも相当に眉唾です
作品内容については語りようがないのを露呈しているみたいで
さらに、こういった手法自体が、シュルレアリストが行った自動筆記の二番煎じじゃないの?という根本的な疑念も残ります

あとがきによると、「バロウズの小説世界は不安に支配された世界だ。…テクノロジーや他人、都会という神が支配する世界なのだ」そうですが、こんなのわざわざ指摘するほどのことかいなと思っちゃう
現代小説なら、お約束の大前提じゃないですか
また、「世界は語られることなく示されるだけだ。物語は始められることもなく、完結することもなく、ただ断片が敷き詰められている」そうですが、フランスのヌーヴォー・ロマンがすでに同一の視点を提示していました
…そういえば、バロウズはパリのホテルの一室に閉じこもって、タイプライターとはさみ(!)を手に執筆活動を行ったということですが、もしかしたらヌーヴォー・ロマン一派ともつながりがあったのかもしれません

さらに、あとがきには、「バロウズの小説は、ビジュアル的イメージがありそうで、実はない。画面は爆発直後であるかのように真っ白い。遠くに、宇宙人か人間かわからぬもの影が蠢くだけだ」とありましたが…
ここで、(ようやくですが)素直に納得できました
歯医者で、目隠しされて(でも、ライトを当てられているので眩しい)、よだれの止まらなくなった口の中に金属棒を突っ込まれて切ったり削ったりされている…この気色の悪さこそ、バロウズなのでしょう

あとがきにしか触れていない(だって、本文については語りようがないんで…笑)
しかも、結局、否定的なことしか書いてないような気もしますが…
総合評価は、「読んでもつまんないけど、話のネタとして一読の価値はある」というところにしておきます
もしかしたら、バロウズはヌーヴォー・ロマンの正当伝承者なのかもしれないということで、罪一等減です(笑)

今日の1曲
Facelift 「フェイスリフト」/ Soft Machine
http://www.youtube.com/watch?v=usu5QuTk8yA
http://www.youtube.com/watch?v=NucnsclXTbk&feature=related
sm1.jpg
Third 紙ジャケット仕様

ヌーヴォー・ロマンは時の試練に負けてしまいましたが、バロウズの評価は高まるばかり
それは、どうしてなのか?
おそらく、バロウズという人物の持つ神話性によるのでしょう
ヌーヴォー・ロマンが生真面目さばかり目立つのに対して、バロウズはゲイで麻薬中毒者で酔払いの殺人鬼(ウィリアム・テルごっこで妻を誤射)なのだから無敵です
バロウズ作品とロック(そしてドラッグ)との親近性についてもよく言われることですが、翻訳作品からはどうにも確かめようがないのが歯がゆいところです


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コメント 4

sknys

モバサムさん、こんばんは。
『ノヴァ急報』(サンリオ文庫)だけでなく、
『爆発した切符』も買っておけば良かった^^;

日本にはドラッグはあっても、「ドラッグ・カルチャー」がないので
受け入れ難い世界なのかもしれません。
中島らもの『バンド・オブ・ザ・ナイト』(2000)も殆ど無視された。
ネコ好き爺さんの『内なるネコ』(河出書房新社 1994)も読んでね^^

今日の1曲。
NYC Ghosts & Flowers / Sonic Youth
http://en.wikipedia.org/wiki/NYC_Ghosts_%26_Flowers
by sknys (2010-05-25 23:28) 

モバサム41

sknysさん、コメントありがとうございます。
サンリオ文庫のバロウズ作品は物凄い高値で取引されてるそうですね(と、あとがきに書いてありました)
『ノヴァ急報』は所持してるってこと?
ならば、証拠に自慢(笑)記事をお願いします。

バロウズが猫好きとは意外でした。
ロックとの繋がりは…網羅するのは私には不可能なので、これもsknysさんにお任せします。

by モバサム41 (2010-05-26 18:45) 

ボオギエ

正直言って内容に関しますと私もモバサムさんと変わりない感想ですが、
彼の作品を語ること自体意味を成さないこと理解していただきたい。
ビート・ジェネレーションを、アメリカの現代史を把握していなければバロウズを理解することはできませんし、私たちが見るべきは作品よりも彼自体なのです。
by ボオギエ (2011-11-30 23:34) 

モバサム41

ボオギエさん、コメントありがとうございます。
『知覚の扉』の記事でも書いたのですが、扉の向こうを垣間見たことのない者が向こう側の新世界を想像するのが難しいように、ビート・ジェネレーションを共に生きていない者がバロウズを理解するのは難しいのかもしれません。
でも、文学はすべて未知の世界への誘いだとも言えるので、これからも果敢に迷いの森での冒険に挑むつもりです。

by モバサム41 (2011-12-04 23:01) 

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