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無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語 [ブック]




夢のなかでしか歌えないとでもいうように、祖母はだしぬけに切ない声を張りあげた。
 神さま、神さま、お戻しください、昔の無垢なわたくしに、
 せめてもう一度、あの愛が享けられますように。

ウリセスはこのとき初めて、祖母の過去に興味を抱いた。
「彼はそこにいたわ」と祖母は続けた。「背中に金剛オウムを止まらせて。グアタラルという男がガイヤナに来たときもそうだったけど、人喰い土人をやっつけるためのラッパ銃をかまえて。彼がわたしの前に立ったとき、わたしは彼の吐く息に死を嗅ぎとったわ。でも、彼は言った、おれは何度も世界を一周した、あらゆる土地のあらゆる女を見てきた、だからおれは言えるのさ、お前はこの世でいちばん気位が高くて、親切で、美しい女だってね……」
祖母はふたたび横になり枕に頭を埋めてすすり泣いた。ウリセスとエレンディラはしばらく口をきかなかった。眠っている老婆の異常に激しい息遣いで、暗闇のなかの二人の体はぐらついた。突然、エレンディラが平然とした声でウリセスに訊いた。
「殺す勇気ある?」
度肝を抜かれてウリセスは返事に窮した。
「どうかな……君は?」
「わたしはだめ」とエレンディラは答えた。「わたしのお祖母ちゃんだもの」
ウリセスはその生命力を測るように、眠っている巨体をもう一度眺めた。それから意を決して言った。
「君のためならなんでもやるよ」

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エレンディラ」 サンリオ文庫
エレンディラ」 ちくま文庫
コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる六つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。 『百年の孤独』と『族長の秋』の大作にはさまれて生まれたこの短篇集は、奇想天外で時に哄笑をもさそう。

謹んでご冥福をお祈り申しあげます

今日の1曲
Can't Remember to Forget You 「キャント・リメンバー・トゥ・フォーゲット・ユー」/ Shakira Feat. Rihanna
シャキーラも、実は結構好きです
https://www.youtube.com/watch?v=o3mP3mJDL2k
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Can't Remember to Forget You

これで「百年の孤独」が文庫で読めるかも…なんて不謹慎なことは考えておりません


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