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NO FUTURE FOR THE FLOWERS [ブック]




テレビ番組“I'm a Celebrity... Get Me Out of Here!“にはまっているため、どうしても現在わたくしの日常における話題の中心は、ジョン・ライドンである。
こんなに熱く彼について語っているのは、20数年ぶりのことだ。ピストルズ再結成の時も語らないこともなかったが、「再結成」は今回の「B級セレブ恥かき番組出演」ほどの衝撃はなかったので、「まあ、お金欲しいんやない?」と思ったぐらいで、なにもジョン・ライドンについて今更再考するほどのことはなかった。
しかし、今回のアクションは派手である。おそらく、ジョンが英国でこれほど騒がせているのは、セックス・ピストルズが登場した時以来のことだ。
それだけに、今回のジョンの行動は「ある世代」の人々にただならぬショックを与えている。それは大手新聞の芸術・芸能面のヘッドたるジャーナリストたちが、自らジョン・ライドンの「メインストリームの屑番組」出演に関する記事を書き始めたことからもわかる。
「ある世代」にとって、ジョンはゴッドだったのである。だから、ジョンにはできるだけロサンジェルスの自宅に閉じこもってもらって、「あの人は今どうしているのだろう」的な、噂は聞くが姿は決して現さぬビンラディンのような神格化しやすい立場を取って欲しい、と「ある世代」の人々は願っていたはずである。
ところが、こうした「ある世代」の願いを木っ端微塵に打ち砕くかのように、ジョン・ライドンは現在、高視聴率のB級セレブ・サヴァイヴァル番組に出演し、オーストラリアのジャングルで、駝鳥につつかれるやら焚き火のそばで歌いおどけて他のセレブを楽しませるやら、お笑いタレントとしての大ブレイクを予感させる大活躍ぶりである。
「ある世代」(たぶん私ぐらいまで引っかかっている)の怒りはまあ納得できないこともない。「反体制者が思い切り体制の中で、ルールに従ってゲームに興じてもいいのか」「女王なんかいらない、政府なんかいらない、と叫んだ男が、大人しい羊のようになって番組のプロデューサーに従っている」「パンクは死んだ。今までも何度か死にかけたが、これで本当に死んでしまった」等々、みなさん本気で書いておられる。記事の文章がいつになく熱いのである。
やはり、英国の「ある世代」にとって、パンク及びジョン・ライドンというのはたいへんな存在なのだ。もう気持ちの入れ込みが違う。2002年12月に元クラッシュのジョー・ストラマーが亡くなった時には一斉に彼の偉大さ崇高さを書きたてた人々が、今度は一斉にジョン・ライドンに罵詈雑言を浴びせかけている。いい歳をした大人たちが、血相を変えてジョンに総攻撃をかけているのだ。
でも、なんかジョンにはこういうのがよく似合うのである。
そもそもパンクともあろうものが尊敬されてどうするのだ。
偉大だ、などと感心されてしまったら、その瞬間からそれはもうパンクじゃない。
アンチ・クライストが神格化されたりしたら、それこそパンクの名折れというものだ。
パンクは罵詈雑言を浴びせられ、猛烈に嫌われて攻撃されてこそのパンクではないか。
47歳にもなって、誰が世間から「アホ」「恥さらし」などと言われたいものか。普通なら、一部の若者に尊敬されて、時々ツァーに出たりして、満足して暮らしたい年齢だろう。
しかし、ジョンは敢えて「恥さらし」なアクションを起こす。これこそパンクの心意気ではなかろうか。
それに、率直に言ってこの人は天才なので、このままロサンジェルスで日光浴などしながら埋もれてもらいたくはないのである。ジョンは、米国でもケーブル・チャンネルで「ロットンTV」という番組を作ったらしいが、どうも失敗したらしい。米国人には、彼のユーモアのセンスは理解されにくいだろう。やはり英国産のものは英国で売らないと。
ピストルズ時代から、ジョンの笑いに対する興味には並々ならぬものがあって、インタヴューでBBCのお笑い番組に影響を受けたなどと言った時には、マネージャーのマルコム・マクラレンが激怒したと云う。
なぜ「笑い」がいかんのか。「笑い」はパンクに劣るのか? わたしは、二者は最も近いところにある芸だと思う。だってコメディーとパンクはこの世になかったら、はっきり言って人生など生きる価値もないではないか。
英国ではプチ・パンクとでも呼びたくなるようなファッションも流行っている(ピストルズのTシャツに、作業着のおっちゃんが履くようなバギーのコンバット履いてスニーカーでキメた青年なんか見ると、やっぱりそういう場合は、下はもっと細身のパンツにしてえ、運動靴っていうより革がいいんじゃないかなあ、と「プチ」でなくて「もろ」が好きなおばさんは思ってしまうが)し、タイミングもいいのではないか。
ジョンには是非、お笑いタレントとして大ブレイクしていただきたい。「パンクは死んだ」などと嘆く中年文化人たちの前を、駝鳥か何かに乗って、どおーっと駆け抜けて行っていただきたい。ほんとにもう、考えただけでも爽快で嬉しくなる。

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ブレイディみかこ『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』ちくま文庫
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で大ブレイクしたみかこさんの幻のデビュー作のDELUXE EDITION(笑)
お下品な話満載なのに、ちくま文庫から出た…というのもビックリです
上記は、第2章ジョン・ライドン編の冒頭「ジョン・ライドン 再考して再興とあらば最高論」からの引用です

今日の1曲はもちろん
Anarchy In The UK「アナーキー・イン・ザ・U.K.」/ Sex Pistols 1972年
https://youtu.be/YJRnwaEUNkM

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セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!

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