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ヴァージニア・アストレイ、あるいは喪失の天使 [ミュージック]




ワインを満たした私のグラスに一羽の蛾がとび込んだ
陶然として蛾は甘美な破滅に身をゆだね
衰弱しつつ酒を漕ぎ よろこんで死んでゆこうとする
とうとうその蛾を私の指がひろいあげた

私の心も 君の眼に幻惑されて
かぐわしい愛のグラスに陶酔しつつ沈んでゆく
君の手の合図が私の運命を成就してくれないならば
君の魔法のワインに酩酊してよろこんで死んでゆくだろう
(ヘルマン・ヘッセ『蝶』所収の「葡萄酒の中の蛾」より)

ここにまた一人、「蝶」が降臨しました…
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サム・スモール・ホープ 紙ジャケット仕様

ヴァージニア・アストレイは、英国スタンモアの出身
恵まれた音楽一家に生まれ(父エドウィンは映画やTVドラマのBGM専門の作曲家、兄ジョンはエリック・クラプトンやザ・フーを手がけたエンジニア、また双子の姉カレンは後にピート・タウンゼントと結婚したそうです)
クラシックの正規の教育を受けながらも、やがてその範疇から逃れ
大学時代には、ケイト・セント・ジョン(後にドリーム・アカデミーを経てソロ)、ニコラ・ホランド(TFFのツァー・メンバーを経てレコーディング・ディレクター)とユニット「ラヴィシング・ビューティーズ」を結成しライヴ活動を開始
解散後はソロに転向し発表した2作のアルバムで独自の田園牧歌的なスタイルを確立
そして、メジャー進出(WEA)した第3作目ではプロデューサーとして坂本龍一を迎えます(1986年)

今日の1曲
アルバムのリーディング・トラックで、坂本との共作
坂本は、彼女のために盟友デイヴィッド・シルヴィアンを召還します
Some Small Hope 「サム・スモール・ホープ」/ Virginia Astley
http://www.youtube.com/watch?v=G3Onw0SMtuI
当時この作品を聞いて、彼女の純粋無垢な魂の前では、変態粘着気質のデイヴィッドも毒気を抜かれおとなしそう…なんて感じたものですが、そんな単純な構図はどうやら違っていたようです

満たされぬまま放り出されている夢
目の前をただ通り過ぎていく生命
私のちっぽけな魂はつまらぬ思いに悩む
でも信頼だけは純なまま

どうして毎日がこんなに憂うつなの?
恐怖から抜け出せる人はいないの?
そんな悲しい絶望を感じたことってある?
たったひとつの望みがあるのに

地中奥深くに埋められた屍のように
私はぞっとするほど孤独
私のちっぽけな魂はやるせない思いに悩む
恐怖で固まって
でも私の人生はいつもこんなふうだった

申し分のない時を過ごしていても
後悔で息も絶え絶え
やがて思い出は消えていく
ずっと遠くの方へ

あなたは行ってしまった
変わらず時は刻み
友達も去りゆく
目を閉じるわ
ずっと遠くの方へ

ほんのわずかな望みがあるのに
ずっとずっと遠くの方へ
(ヴァージニア・アストレイ「サム・スモール・ホープ」歌詞)

「あなた」は、彼女の前から姿を消したそうです
彼女と、そして…
お腹の子(フローレンスと命名)を残して
だから、彼女がダークサイドに落ちてしまったのか、そこまではどうにもわかりかねますが
芸術は満たされぬ思いの上にのみ成り立つ、美は喪失の上空をのみ高く飛翔する、ということだけは言えそうです


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