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ペンテジレーア [ブック]




シリーズ化されてこんなに長く続くとは…思ってもいませんでした

戦記1 「トロイ
前哨戦 映画版「トロイ」
初戦 ホメーロス「イーリアス」 岩波文庫旧約版
第二戦 ホメロス「イリアス」 岩波文庫新訳版
第三戦 コルートス、トリピオドーロス「ヘレネー誘拐・トロイア落城」 講談社学術文庫
第四戦 クイントゥス「トロイア戦記」 講談社学術文庫

戦記2 「トロイ無双
第五戦 ピロストラトス「英雄が語るトロイア戦争」 平凡社ライブラリー
第六戦 ヴェルギリウス「アエネーイス」 岩波文庫

戦記3 「トロイ陥落せず
第七戦 クリュソストモス「トロイ陥落せず」 京都大学学術出版会 ←残念ながら未読です

あまり深くは考えずに戦闘を開始したのですが、戦いを重ねるに従い、「歴史は果たして変えられるのか」「重層する多次元世界は存在するのか」といった壮大なテーマが盛り込まれるようになり、話が膨らんじゃって収拾つかなくなり、この先どうしようかしらんと途方に暮れていました…(笑)

そして、打開策を考える間もなく、第八戦が勃発です
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クライスト「ペンテジレーア」 岩波文庫

今回、ギリシア軍に挑むのは、うら若き乙女のセンシティブ情報を公開するのはいかがなものか、身長200㎝、体重91kg(ゲーム「トロイ無双」の設定データより)のあの人です
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そう、アマゾン族の女王ペンテシレイア(ドイツ語なのでペンテジレーアとなります)が再挑戦
クライストの小説の設定では、ペンテジレーアは、トロイの援軍のために参戦した訳ではなく(笑)、「薔薇祭」(=女人族のアマゾネスが、人員補充のために、捕獲した男と交わる儀式)の相手をさらい取るためにやって来ます
その相手とは…英雄アキレス、女王ペンテシレイアに相応しいのは彼しかいないと母から厳命されての参戦でした
トロイとの同盟関係もなく、おまけにそんな不純な(?)動機では勝ち目はないような気がしますが、とにかく戦いは開始されます
(なお、ドイツ語だと英雄アキレスがアヒレスとかアヒルという表記になって、ちょっと脱力してしまうので、人名は適当に修正してあります)

アマゾネスたち
万歳、戦勝の女将軍よ! 勝利者よ!
薔薇祭の女王よ! 万々歳!
ペンテジレーア
凱旋のことなど、薔薇祭のことなど何も言ってくれるな!
戦いがもう一度私を戦場に呼び戻すのだ。
あの若い強情な軍神をば私はうち負かそうと思うのだ。
私の親しい人たちよ、
一つの炎の球に溶かしつけた一万の太陽といえども私にとっては、
一つの勝利、彼に対する一つの勝利ほど、それほど輝かしくはないのじゃ
プロトーエ(ペンテジレーアの部下)
私のいとしい方、私はあなたに切にお願いします、どうぞ――
ペンテジレーア
構わずに置いてくれい!
お前は私の決心したことを聴いたあろうが。
お前は山から突き落ちる渓流を防ぎ留めることができようとも、
私の心の落雷はどうすることもできないのだ。
私は私の足許に彼が倒れ伏すのを見たいのだ、この栄ある戦いの日において、
戦いに勇み立つ私の歓喜をば
これまでになく掻き乱す傲慢な男を、私の足許に見たいのだ。
私の足が彼に近づく度毎に、
彼の胸部の真鍮の鎧が私に照り返して見せるのは、
勝利者、もの凄い勝利者、
アマゾネスどもの誇らかな女王の姿であろうか?
あらゆる神々の呪詛をかけられた女なる私は、
ギリシアの軍勢が私を恐れて逃げまどうときに、
この比いなき英傑を見ると、
心の奥を射ぬかれたように、全く無気力になるのを感じないだろうか、
打ち勝たれたる女、敗北者としての私を見出さないであろうか?
いかなる乳房も授けられなかった私の何処に、
私を全く圧倒するような感情が宿るのであろうか?
嘲り笑う男が私を待っている戦の巷に私は突き入るのだ、
そして彼をうちひしいでやるのだ!
そうでなくば私は生きてはいないのだ!

女王は、稀代な英傑に対する恋慕の念と相手を克服せんと野心に燃え、物凄まじい勢いでギリシア軍の中に突撃し、他の者には眼もくれず、ただただアキレスを追撃、彼を危地に陥れます
しかし、ついにアキレスの一撃を受けて落馬、彼の捕虜となります
混乱に陥った女王を落ち着かせるため、プロトーエはアキレスに懇願します
戦いはペンテジレーアが勝利し、アキレスは彼女の捕虜になったように振舞って欲しいと
ペンテジレーアの美しさに打たれたアキレスはそれを聞き入れます
やがて、アマゾン軍は勢いを盛り返し、奪われた女王を取り戻します
ペンテジレーアは、ようやく自分がアキレスの捕虜になっていたことを悟りますが、そこに、ギリシア軍の使者が現れ、アキレスから女王への一騎打ちの挑戦状が手渡されます
実は、アキレスは決闘でわざと彼女に負けて捕虜となり、やがては彼女を自分の妃にしようとの考えでした
しかし、ペンテジレーアは…

メローエ(ペンテジレーアの部下)
あなた方も知られる通り、彼女は彼女の恋する青年の方に向って行ったのです、
あれからというもの、何という名をつけようもない彼女は――
若々しい感覚の混乱に身を任せたまま、
彼を所有せんとの願望、燃えるような願望をば、
ありとあらゆる恐ろしい武器を以って武装しつつ、吠え叫ぶ犬の群や象の群から取り囲まれて、
彼女はやって来られた…(略)…
将卒たちのいうところによると、若い無思慮に駆られたまま、
心から進んで、決闘において彼女にうち負けたいためばかりに、
彼女を戦場へ呼び寄せたアキレスは…(略)…
彼は彼女を恋していたのです。彼女の若さに心を動かされて、
ディアーナの殿堂まで彼女について行こうとしたのです、
彼は甘い予感で胸を一杯にしながら、彼女に近づいて来る、
そして味方の人々をはるかあとに残したのです。
ところが今、彼女があんな恐ろしいものを従えて、
ただ見せかけのためにほんの槍一本に身を堅めた彼の方に、
おどろおどろしく突き進んで来るのを見て、
彼はハタと立ち止まり、ほっそりしたうなじをひねり、聞き耳をすました、
そして恐怖に打たれて駆け出し、またハタと立ち止まり、またもと来た道を急ぐのです。
…(略)…
ところがすでに一隊の兵士どもに路を断ち切られて、
立ち止まりざま両手をふりあげてから、気の毒なその人は、
黒ずんだ枝を重々しく垂らしている、
唐桧の樹蔭に身を屈めて隠れたのです。――
その間に女王は近づいて来た、
犬どもを従えながら、山々や森を、
猟師のように威猛高に見渡しながら。
そして彼が丁度、木の枝をうち開きつつ、
彼女の足もとに倒れ伏そうとすると、
…(略)…
狂人のような力をもって、すぐに弓を、両方の端が接吻するほどに引きしぼった、
それから弓を高めて狙いを定め、ヒョウと放って、
矢をば彼の首を通してうち込んだ、すると彼は倒れた。
そして勝利のおたけびが荒々しく軍勢のうちに捲き上がったのです。
しかしそれでも人間のうちの最も哀れなる人は、まだ息を引き取らなかった、
ながく突き出た矢を首にさしたまま、
咽喉をゴロゴロ言わせて、身を起こして、逃げ出そうとする。
ところが…(略)…
そして突きかかった――畜類の一群と共に、おお、ディアーナ神よ!
彼をめがけて突きかかった、そして引きずり倒した――兜の羽毛をひっつかんで、
彼の胸にとびかかり、彼の首にとびかかる、
犬どもにたちまじって、一匹の牝犬のように、彼をひきずり倒した、
大地もうちふるえたるほどの勢いで!
彼は唐紅の血潮の中にふしまろびながら、
彼女の柔らかな頬をまさぐってこう叫んだ、
「ペンテジレーアよ! 私の許嫁よ! お前は何をするんだ?
これがお前の約束した薔薇の祭なのか?」

あまりに凄惨なので、ここまでにしておきます
ちょっと後味が悪いですが、でも…勝利は勝利
思わぬ伏兵が英雄アキレスを圧倒
トロイ軍に初の勝利をもたらしてくれました

今日の1曲
ハインリッヒ・フォン・クライストはドイツの作家なので、私の僕たちの中からプロパガンダを召喚しておきます
Duel (Bitter Sweet Mix) 「不思議の国のデュエル(ビタースイート)」/ Propaganda
愛は狂気…そして愛は決闘です
http://www.youtube.com/watch?v=I_NDQWtHeC4
SN310616.JPG
プロパガンダ「不思議の国のデュエル」 12インチ・シングル
1985年 ポリスター R13D-2002


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コメント 2

akkun

ご無沙汰しております。以前何度かコメントした者です。
「トロイア陥落せず」は未読でしたか。私も未読です。
岩波新書、岩波文庫のギリシャ英雄叙事詩に関するものとか、フィンりーの「オデュッセウスの世界」とかいった方面は読みましたが、文芸系のスピンオフは、「ヘレネー誘拐・トロイア落城」「トロイア戦記」以外はギリシア悲劇も未読です。ちくま文庫のアイスキュロスとソフォクレスは持ってますが積んどく状態です。
スキタイ人がアマゾン族のモデルという説がありますが、歴史的な考察は文芸世界では野暮な推測とされるのでしょうかね。
by akkun (2014-07-14 15:05) 

モバサム41

akkunさん、いつもコメントありがとうございます。
どんどんネタがピンポイント化していきますが、反響があるとうれしいです。
私も「オデュッセウスの世界」やクセノホンの「アナバシス」は買ったままで、読まない本がどんどん積み上がっていきます。
by モバサム41 (2014-07-16 23:35) 

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