SSブログ

平民ルイ・カペー [ブック]




1792年8月10日、全国各地から集結した連盟兵に、武装蜂起した民衆も加わった2万人の大集団がチュイルリー宮殿を襲撃した。いわゆる「8月10日の革命」である。以後、国王一家はパリ中央のタンプル塔に幽閉された。
同年9月22日、王権は停止され、ルイ16世は平民ルイ・カペーに身を落としたが、その罪をいかに裁くかをめぐって諸派の意見は対立した。王権停止後に設けられた国民公会での「裁判」を経て、1793年1月14日から18日にかけて最終的な投票が行われた。
「国王は有罪か否か」をめぐる第1回投票は圧倒的多数によって可決され、「国民公会に国王を裁く権限ありや否や」をめぐる第2回投票もかなりの票差で可決された。しかし、ルイ・カペーにいかなる刑を与えるべきかをめぐっての第3回投票では、無条件で即刻死刑を唱える者が有効投票数721票中361票、まさしく過半数ぎりぎりという結果を生じた。それを受けてさらに「執行猶予を認めるか否か」が投票で問われ、「否」が70票上回った。これがルイ・カペーを断頭台に送る法的な根拠となったのである。なおここでいう投票はすべて、各代議員が登壇して自らの意見を述べる個別投票(アベル・ノミナル)の形式が取られた。だれがどういう意見を表明したかは、『国会古文書集(アルシーヴ・パルルマンテール)』に残る記録が公表されており、今日でも詳細に知ることができる。
「判決」に至るまでのプロセスは一般の犯罪者に対する裁判とはまったく異なっているし、ずいぶんごたごたした、すっきりしない印象を与えることは否めない。元国王の罪はいったい何だったのかという肝心な点をめぐってもさまざまな捉え方があった。国民公会の流れを大きく左右する影響力を持ったといわれるのは、急進共和派の美青年、「革命の大天使」ことサン=ジュストによる「人は罪なくして支配することはできない」という有名な弾劾演説だった。要するに、王であること自体が人民に対する反逆者であり、簒奪者であることを意味するとの主張である。しかしそのサン=ジュストも華々しい演説後、2年足らずで断頭台の露と消えた。恐怖政治の嵐が過ぎ去ったのち、一直線に突き進んだ革命に対するさまざまな揺り戻しが生じたのは無理もないことだった。
万人の平等を高らかに謳う人権宣言のメッセージを誇らしくは思いつつも、血にまみれた革命の成り行きをどう考えるかは、のちのフランス人にとって単純な問題ではなかった。ルイ16世の処刑をのみに話を限っても、その正統性は今日もなお決して自明ではない。革命200周年の1989年、テレビ番組がルイ16世の「裁判」を大々的に再現した。そこで出された判決は、僅差で死刑を否定するものだったと記憶する。
とはいえ、大革命がフランスの歴史を二分する意味をもったこと自体は否定しようのない事実である。もちろん、ナポレオンの「皇帝」即位および失脚、ルイ16世の2人の弟たちの即位による王政復古と、19世紀フランスの歴史は、革命が本来有した共和主義の精神を実現するにはほど遠かった。しかし国王と貴族を中心とする旧体制の退潮は、もはやだれの目にも明らかだった。富裕な市民階級が貴族を押しのけて地歩を確立し、生まれの貴賎に基づく秩序を資本経済の論理が凌駕する時代が到来したのである。
そのことをジョルジュ・バタイユのような思想家は、「ヴェルサイユ宮殿風の大泉水工事から現代のダム工事へ」の「根源的な変革」という風に表現している(『文学と愛』)。あるいは、ヴェルサイユが具現しまた称揚したホモ・エロティクス(エロス的人間)の文化から、ホモ・エコノミクス(経済的人間)の文化への転換が起こったと言ってもいいだろう。
ロベール・モージの名著『18世紀における幸福の観念』によれば、前資本主義段階の人間は結局のところ二つの階層に大別される。もっぱら金を消費し贅沢に蕩尽するだけの階層と、額に汗して日々の糧を得る階層である。前者が開豁気性を持つのに対し、後者は閉鎖的である。そして前者は自らの持つエネルギーを「アムール」に注ぎ込むのに対し、後者はそれを「金銭」に換え、貯蓄に励む。大革命がルイ16世の斬首という形で劇的に描き出したのは、前者に対する処罰と後者への主権の移譲だった。その結果としてエロス的原理は大幅に後退し、経済的有効性とそれを支えるブルジョワジーのモラルが社会の基盤として確立されたのである。

読みかけの本にサンちゃんが出て来たので、ここに報告しておきます
うちのブログには専属のサブ・キャラが何人かいて、きっかけさえあれば彼(彼女)らを必ず登場させるというお約束があります(サンちゃん以外だと、メイベルとオーブリーのビアズリー姉弟、女優サラ・ベルナールやクレオ・ド・メロード、コクトーとラディゲ、大杉栄と伊藤野枝、怪盗黒いチューリップ、怪人マブゼ博士、永遠に戦い続けるトロイの勇者たち、永遠に家康の首を狙う真田十勇士、踊る自動人形オリンピア、錯乱中のジム・モリソン、Bow Wow Wow のアナベラちゃん…笑)
なお、常連さんならご存知かと思いますが、うちの息子はサンちゃんから名前をいただいております
元国王からではありません
lc1'.jpg
フランス文学と愛」 野崎歓 講談社現代新書
名作は「愛(アムール)の教育装置」だった! 結婚の理想と現実、禁断の愛、欲望と快楽…あらゆる「愛」でフランス文学史を辿る。

なお、表紙の4分の3を覆う帯(最近、なぜか巨大化しています)に描かれたイラストは、バルザック『谷間の百合』の名場面「背中への接吻」です

今日の1曲
La Songerie 「魅惑劇」/ Novela
意表をついて和風で攻めます
メロトロンの響きがとても心地良いです
https://www.youtube.com/watch?v=xZkFaSmrtws
nvl'.jpg
魅惑劇

参考文献
取りあえず新書サイズのものだけです
lc2'.jpg lc3'.jpg
十六世紀フランス文学」 V.L.ソーニェ  文庫クセジュ
改訳 十七世紀フランス文学」 V.L.ソーニェ  文庫クセジュ

lc4'.jpg lc5'.jpg
十九世紀フランス文学」 V.L.ソーニェ  文庫クセジュ
今日のフランス作家たち」 ピエール・ド・ボワデッフル  文庫クセジュ

lc6'.jpg fr'.jpg
二十世紀フランス小説」 ドミニク ラバテ  文庫クセジュ
フランス恋愛小説論」 工藤庸子 岩波文庫

lc7'.jpg
フランス小説の扉」 野崎歓 白水Uブックス

関連記事
VSOP、XO、ナポレオン
大天使、羽ばたく
Brother, Dear Brother...
オルガン
Brother, Dear Brother... 8th Anniversary Reissue
フランス革命の肖像


コメント(4)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

コメント 4

makimaki

ブログ拝見しました
by makimaki (2014-07-22 06:34) 

薔薇色

すみません、もしかしてMobileSamurai41さんはGILLE'LOVESのボーカリストですか。
by 薔薇色 (2014-07-22 19:57) 

モバサム41

makimakiさん、いつもありがとうございます。
by モバサム41 (2014-07-26 22:43) 

モバサム41

薔薇色さん、コメントありがとうございます。
学生時代、アマチュア・バンドでベースを弾きながらヴォーカルをこなすことができなかった悪夢が蘇るので、変な冗談は止めてください(笑)
by モバサム41 (2014-07-26 22:47) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

From Outer Spaceテレーズ・ラカン ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。